_2:

6/10
前へ
/190ページ
次へ
 記憶を共有しているため、意識が違う者に移り変わっても、悪魔自身気付けない時がある。  今がまさに、その状態だった。それで男は、急遽悪魔を叩き起こしたのだろう。 「分かり難いから、新しい名前をやる。それぐらいおまえは、今までとは違う」 「えええー……ちょっと待って、何処にいたのさ、この今のオレ……」  鏡にかじりつく悪魔や男が把握していた意識は四つで、大元の体の主――本体と、既にいなくなった二人に、後は昨日までの「翼槞」だけだ。  それらは全て、体の主が誕生した時からあったものだ。なのに今の悪魔は、全く新しい意識だと言える。 「こんなに簡単にオレが増えんのは、さすがに困るし。どんどん本体、埋もれてっちゃわない?」 「その通りだな。いつまた起きるか保証もできないが、その確率が下がるのは確かだ」  この男は悪魔について、悪魔の元上司でもある伴侶から、本体を起こすように頼まれている。だからこれは、男にも困った事態なのだ。  悪魔にそんな、いくつもの意識があるのは、悪魔が不安定に過ぎる試験管育ちの化け物……人造の吸血鬼だからでもある。  しかしこれまで、別の意識が消えることはあれ、新たに生まれることはなかったのだ。  どの意識も、この体を守るのに都合良く造られた性格なのは同じだ。  それでも本格的に体を守る役割を担ったのは、これまでの「翼槞」が一番手だ。それが今更覆されるのは、何の悪い冗談だろうか。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加