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 不本意ながら視線を返し、改めて悪魔はじっと、壁掛けの鏡の前に立つ。  それでなくてもシャツ一枚だが、いつもは第二ボタンまできちんと掛ける上着は、下の方の三つしか閉じていない。  首元や鎖骨も露わに、いつになく悩ましい恰好で眠っていたのだと、やっと医者の苦い視線に思い至った。 「本体のオレじゃないのに……この傷も見えてるし?」  左の首筋には、ほぼ水平に走る、古くて大きな切り傷の痕がある。  そこには昔、人造の吸血鬼を製造者が操作するための、頸髄に電気信号を送る制御装置が埋め込まれていた。それを無理矢理分離した時、その傷痕が残ったのだ。  あまり傍目の印象が良くないので、普段はハイネックの服装を好み、化ける際にも映像的に隠している。ところが今の己は、その必要性を感じていないらしい。 「ありのままで、というやつだな。いったいどんな心境の変化があった?」 「知らないし。昨日はもう、眠くて仕方なかったし」  正確に言えば、とても疲れていたのに、明け方まで珍しく眠れなかった。  何を考えていたかは覚えていない。夜型が当然の吸血鬼とはいえ、最近は今後の高校生活に合わせるべく、早起きを始めていたところだ。朝から診療所を開く男の居室で過ごす上でも、それは一応守るべき事だった。 「うええ……やばい、まじで覚えてない……」  今までの「翼槞」は、だらしない恰好を好まなかった。こんな姿で寝たということは、少なくとも夜中から今の自分だったはずだ。  けれど記憶は、二人暮らしの話がまとまったところで途絶えていた。
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