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「今日は今から、また仕事? もう何か見つかったのぉー?」
「いや……まだ……」
「そーなのぉ? じゃあじゃあ、ワタシに雇われない? ダメぇ?」
苦手意識はあるが、降ってわいたような仕事の誘い。
食べ物よりはマシだと、即座にツバメは頷いていた。
「ヘンなことでなければ。何をすれば、いいんだ?」
「わー、やったぁー。ツバメくん、ゲットだぜー!」
身軽な服装で、きゃあきゃあと喜ぶ、くるくるとした茶髪の女性。そのノリにはやはり、ついていけそうにない。
落ち着いて尋ねたツバメに、キカリさんという名字だけ知っている女性は、ツバメを激しく動揺させる答を返したのだった。
「じゃあねぇ、ワタシと一緒に、このお店に付き合ってほしいのぉ!」
迂闊だった。キカリさんが色褪せた鞄から取り出してばんと掲げた、スマホというらしい四角い道具の中に、明らかに食べ物屋の看板が映っていた。
「あ……」
瞬時にツバメは、硬直する。受けると頷いておいて、今更断れはしない。
そんなことをすれば、今後の仕事探しに支障が出かねない。
「お給料は、ワタシが奢るご飯代っていうことで、どーだぁ!? ここ、とてもいいお店なのよーう!」
飲食店での賄いよりも、更に断り難い、溢れる期待と善意。ツバメの全身を冷汗が襲う。
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