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 悪魔のあまりの健忘ぶりに、ふっと男が、わずかに口の端を上げて笑った。 「そこまで無意識となると――案外、本体の奴が珍しく出てたのかもしれないな」 「え?」 「おまえ達全員が持つ記憶を、一時でも独占できるのは本体くらいだろ。そして何かの必要性を感じて、今のおまえを顕在化させた……『翼槞』をお払い箱にする程度には、真剣にな」  昨日までの翼槞の名は、実際には過去に消えた意識の一人で、吸血鬼としての心だと言えた。その残滓を取り込み、あくどくなった「悪魔」が、今はこの体を一番上手く動かせる。  それなのに、何処から現れたかわからない今の悪魔に、「悪魔」――「翼槞」はあっさり、主導権を渡し過ぎだった。 「お払い箱ってぇ……まさかオレ、新参者なのに、これからメインなの?」 「アイツ(翼槞)はそもそも廃人だからな。誰もいないから仕方なく動いただけで、おまえがいれば遠慮なく引きこもるだろ」 「ちょ、ま……それはさすがに、人格使い、荒過ぎ……」  滅多に顕在化しない本体のために、この体が朽ちないよう、悪魔達は本体の代わりに動き続けてきたと言える。  当初は「吸血鬼の翼槞」が優位だったが、それが破綻して、「悪魔の翼槞」に主導権が移った。そして今また、主導権が新たに、この奇妙な悪魔に移ったらしい。  自分ですら不審に思う悪魔に、何故そんな事が起こるのだろう。
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