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これから仕事ということで、白衣を羽織った黒い男は、ドアの前で振り返りながら溜め息をついた。
「夜までには、名前を見極めてやる。それまでは好きにしてろ」
「はあ。そりゃ、ありがたいこって」
この神眼の男に名前をもらうこと。それは現在の悪魔としての存在の意味の見定めでもある。
男が診察室の方に出ていった後、もう一度長椅子にごろりと寝転び、悪魔は見慣れた天井をぼけっとした頭で見上げた。
「この今の『オレ』が……アイツの意思、だって……?」
完全に新参者の悪魔は、会った事すらもない本来の体の主。
容姿は最も近いと言われたが、たとえば服の着こなしなどは真逆に違う。
いつも一番下に着る黒のハイネックを脱いでいたので、拾って着直し、首元まで閉めると暑苦しくなった。今までそれが当然だったのに、諦めてファスナーを下ろし、上に羽織ったシャツのボタンも全て外す。そうして全身の風通しを良くする。
「アホらし……ツバメが嫌がるなら、それまでだし」
何となくだが、予感はあった。根拠は特になかったのだが……。
「らしくないっつー。何で気にしてんのさ、オレ」
今までの「翼槞」なら、従者との契約が切れたところで何も感じないだろう。
その契約は元々、従者になる相方への助けの手だった。だから基本的に、優位であるのは悪魔のはずなのだ。
それでもモヤモヤとする謎の性質が今の自分だと、悪魔は最初に思い知ったのだった。
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