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 山科燕雨(やましなつばめ)。性格は朴訥でも、見た目は無造作な金髪で、ロック系の軽装と小洒落た青年。  何年経っても変わらない相方が、微妙に変わった翼の悪魔の姿に、初見で黒い目を丸くしていた。 「なに面白い顔してんのさ、ツバメ」  滞在する診療所の外来室で、沢山あるドアの一つを開けて入ってきた相方に、新参者の悪魔は意識して軽く言った。  昔から妙に勘の良い相方は、悪魔の変化を一目で感じ取っている。それがわかる悪魔にも別種の勘の良さがあるが、相方は悪魔と違い、五感――特に視覚を通すまでは、その勘がしっかり発揮されない。  二人暮らしが決まった後から、結局「翼槞」に戻らないまま、相方と何度か連絡をとった。その通信時には気取られなかったが、こうして直接会うと、やはりわかってしまうものらしい。  何がしかの変化はわかるが、内実は相方もわからないと見えた。黙ってきょとんとしている相手に、あえて不敵な笑みを悪魔は浮かべる。 「初めに言っておくけど、こっちの世界ではオレのこと、『汐音(しおん)』って呼ぶこと。おっけー?」  汐音――悪魔自身、自分に何が起きたかわからないのだから、その話題に触れる気はない。  口にした名は、外来室を区切るカーテンの向こうにいる医者の男が、数日前につけてくれたものだった。 「しおん……って?」  僅かな荷物を片側で背負う相方が、精一杯の不審そうな表情を浮かべて、大きく細い首を傾げていた。
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