_3:

3/10

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
 「翼槞」以来、久々に得た新しい名前の由来は、悪魔も気になっていたのだが……。 「意味は自分で考えろ。前の名付け親ほど、俺は甘くない」  翼槞の名自体は適切と褒めながらも、名付け直後にばっさりと言い切った、無表情な黒衣の医者だった。  何らかの「力」ある存在に、名前という定義を与えることには、とても大きな「意味」がある。それがヒトであれモノであれ場所であれ、妥当でない名からは、その真価は発揮されない。  だから名付けとは、誰にでもできることではないのだ。 「ふーんだ、ケチー。オレがそんなの、マジメに考えると思ってんの?」 「……たまには考えろ。ナギには俺から、改めて伝える」  男の伴侶――最近はさっぱり連絡をとっていない元上司は、今も悪魔を心配しているという。  使い勝手の良い駒が、減っただけだろうと悪魔は思う。悪魔も元上司も、自らのために以外動かない、悪性の魔物であるのだから。  それで言えば黒い男も、「神」でありながら魔王のはしくれという、油断のならない存在だった。 「……おまえは今、自分で思う以上に、差し迫ってるぞ」  煙草を挟む指で口元を隠し、苦いとしか言えない声色の神眼の男。  しかしそんな黒の目線は、新しい名前がわりと気に入った悪魔には、オマケの事柄でしかない。  氷輪(ひわ)汐音。戸籍は得ていない名前だが、その響きは確かに、実体なき今の悪魔にはよく合っていた。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加