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「翼槞」以来、久々に得た新しい名前の由来は、悪魔も気になっていたのだが……。
「意味は自分で考えろ。前の名付け親ほど、俺は甘くない」
翼槞の名自体は適切と褒めながらも、名付け直後にばっさりと言い切った、無表情な黒衣の医者だった。
何らかの「力」ある存在に、名前という定義を与えることには、とても大きな「意味」がある。それがヒトであれモノであれ場所であれ、妥当でない名からは、その真価は発揮されない。
だから名付けとは、誰にでもできることではないのだ。
「ふーんだ、ケチー。オレがそんなの、マジメに考えると思ってんの?」
「……たまには考えろ。ナギには俺から、改めて伝える」
男の伴侶――最近はさっぱり連絡をとっていない元上司は、今も悪魔を心配しているという。
使い勝手の良い駒が、減っただけだろうと悪魔は思う。悪魔も元上司も、自らのために以外動かない、悪性の魔物であるのだから。
それで言えば黒い男も、「神」でありながら魔王のはしくれという、油断のならない存在だった。
「……おまえは今、自分で思う以上に、差し迫ってるぞ」
煙草を挟む指で口元を隠し、苦いとしか言えない声色の神眼の男。
しかしそんな黒の目線は、新しい名前がわりと気に入った悪魔には、オマケの事柄でしかない。
氷輪汐音。戸籍は得ていない名前だが、その響きは確かに、実体なき今の悪魔にはよく合っていた。
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