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 故郷で世話になる家を出た時、相方は多少の路銀の援助を受けたという。  そうして持ってきた異界の金貨を、換金してくれる質屋を見つけるまでは、何とか相方も気を張っていた。しかしその後はへたり込んでしまったので、診療所に一度戻ることにしたのだった。  処置室のベッドを借りて、蒼白な顔で横になった相方が、ひどく申し訳なさそうに悪魔を見上げていた。 「ごめん、情けない……反省、する……」 「ばーか、想定内だよ。それより初期費用、持ってきてくれて有難いし」  ひとまず一番急ぎの事項は、住む場所を確保することだ。  いもしない親の同意書と、医者の男という保証人は用意してある。それで高校生に部屋を貸してくれる業者は、既に一応見つけてある。 「後はオレ一人で、十分手続きできるし。オマエはしばらく、休んでなよ」  相方の妹の住む部屋を、「翼槞」は探す手伝いをした。そちらはきちんとした所だが、その時に契約手順を知った経験が役に立っていた。  でも、と呻る相方にさっさと背を向け、悪魔は一人で再び町に出ていく。  大昔は浮浪者だった相方は、住む部屋にこだわりなどないだろう。悪魔も似たり寄ったりだが、とりあえず今は、定住する部屋を借りてみるという状況そのものが楽しかった。 「……らしくないね、オレ」  だから早く、住処を決めてしまいたい。診療所の処置室に泊まるよりも、その不思議な魅力が悪魔をせっつかせていた。
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