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断りはできないまでも、すぐ頷けなかったツバメに、キカリさんは一転して申し訳なさそうな顔になっていった。
「あれれ、ひょっとして、何かまずいかなぁ? ツバメくんもしかして、束縛強い彼女持ちとか?」
違う女と、ゴハンはダメ? と、キカリさんなりに、とても気を遣って尋ねてくれている。
誤解してはいるが、その心遣いは純粋なものだと直観できて、ツバメは少しほっとした。
これなら少々、話の方向を変えれば、何とかなると思えてきた。
「……うん。俺、オクサンいるから」
「えぇぇー! うわぁ、それ、大ショックぅー! 可愛い顔してツバメくん、既婚者ぁー!?」
この場にいない彼女を、悪いが利用させてもらう。誰にも気を許すなと言っていたし、それくらいは良いだろう。
「がちょーん。じゃあもう、仕方ないなぁ。今日は帰るかぁー」
「…………」
すぐに引き下がった女性は、一見積極的だが、見た目よりは控え目らしい。
困ったように笑い、所々がほつれた鞄の紐を握りながら、キカリさんがぽつりとぼやいていた。
「気晴らし……したかったんだけど、なぁ」
その妙に残念そうな姿は、不意に、ツバメの何かに引っかかった。
「他に何か……俺にできること、ない?」
別に、何もいらないから、と。女性の心遣いへの感謝も含めて、ツバメは尋ねる。
そこでキカリさんは、虚をつかれたように、ぽかんとした顔を見せたのだった。
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