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まずもって、露骨に変わってしまったのは、神の館の前で立ちすくむ己だった。
「え……なん、で……?」
先日にはこんな、おかしな気持ちは芽生えなかった。
「翼槞」はしょぼいとしか感じなかった小さな教会が、悪魔には何故か、とても暖かそうに見えた。
「何で……何か、ほっとするわけ……?」
以前に来た夕暮れとは違い、教会の内には明かりが灯り、ドアもしっかりと閉められている。
聖なる光に満たされた場所。これではとても、中を窺うこともできそうにない。夜の闇に包まれていても、悪魔の付け入る隙が見当たらないのだ。
「これは……お手上げ、かなあ……」
わざわざここまで来ておいて、一目で引き返す気になるなど、本当に悪魔らしくなかった。
人間界にしては何故か確立された聖域に、恐れをなした……というわけでもない。
強いて言えば、その安定感が、どうしてなのか嬉しかった。
だからわざわざ、波風を立てたくないという、おかしな気持ちが先立ってしまい……――
最早二度と、そこに関わるまいと思った悪魔を、その人間は迂闊に引き止めていた。
「待って……――エンジェル」
明かりのもれる教会のドアから、不意に静かに、謎の呼び声をかけてきた者。
先日のあの女性が、立ち去ろうとする悪魔の後ろ姿を、細い眼鏡に小さく映していたのだった。
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