_4:

3/10

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
 詩乃の目色は、日本人によくある濃褐色だが、かすかに金彩の眼光を放っている。その威光から察するに、おそらく何か、神がかりの「力」を伝える家系のはずだ。  あの医者よりは弱い、人間程度の神眼。それでも悪魔の翼は見切られるのか、と僅かに溜め息がこぼれた。  そんな悪魔を不思議そうに、もう一度歩き出した詩乃が横目に見てくる。 「それじゃ、やっぱり、貴方はもう(そら)を捨てたエンジェルなのね」 「……」 「そんな気はしていたの。だって貴方……凄く、淋しそうなんだもの」  吸血鬼である悪魔だが、その身に持つ「力」の一部は、堕天使に近くはあった。  悪魔の脅威になり得る詩乃に、あまり警戒されないために、あえて否定はしないことにする。  聖域である教会を出て、今の詩乃は隙だらけだ。何の「力」を持つかは知らないが、排除するならこの上ない好機だろう。  しかしずっと、それを望む「翼槞」が出てこない。何かが結局、悪魔達をおし止めている。  とっくに人格が破綻したはずの、「翼槞」が躊躇う心当たりは、一つしか思いつかなかった。  「……あのさ。あんたの天使って……誰のこと?」  それはあの、たった一言。  初対面のあの時から、翼の悪魔の中で、錆びついた歯車が狂い始めたのだ。 ――貴方、わたしの天使を知っているの?  あれから悪魔は、すぐに場から立ち去ったはずだ。  けれどその時の記憶も、黄昏の靄がかかったように曖昧だった。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加