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 ちょうど話がそこまで来た時、詩乃が小さな一軒家の前に立ち止まり、鞄から合鍵らしきものを取り出していた。  黙っているので、話の続きはこの中でということだろう。意味もなく全身に力が入っていた悪魔は、何してんだろ、オレ。と、不意に我に返った。  もう外来も終わる頃で、診療所に帰らないと、来たばかりの相方が心配しているだろう。そして健全に早い時間に寝る医者が、あまり遅くなると、居室に入れてくれなくなる。  処置室にいくつかある硬い診察台と、居室の長椅子なら断然に、長椅子の方が寝心地がいい。相方は処置室で寝かせても、悪魔の方は是非、居室に入れてもらいたい。  そんなこんなを考えながら、それでも何故か、知らない家に入る詩乃の後に黙って続く。  表札には「真羽」と書かれていて、何と読むかわからなかった。けれどそれも、意味もなくチクリと胸を刺すような気がした。 「こっちよ……ごめんなさい、今は静かにしてあげてね?」  勝手知ったる様子で、友人宅らしき家の居間に入った詩乃を、待っていたのは――  先日、悪魔が教会に行った時に見た、あの黒髪の幼い少年だった。 「あらら、可哀想に……熱も出てて、心細かったでしょうに……」  散らかった居間では、冷たい床の上で、小さな毛布をかぶった少年が寝付いている。  顔は紅潮していて、隣の和室に敷かれた布団より、冷やりとした床の方が気持ち良かったのだろう。
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