_4:

5/10

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
「最近は特に、忙しいと言っていたけど……こんな時まで急な仕事なんて、陽子さんだって、辛いでしょうに」  眠りこけた少年を抱えて、つながる和室に詩乃が入っていく。  この少年をよく詩乃に預けて、母親は仕事に行くようだが、今日は教会に連れてくる余裕もなかったらしい。  詩乃に抱きかかえられて、安心したのか、眠りながら少年がぐずりだした。 「ごめんねユウくん、眠いねぇ。ちゃんと水分はとってるのかな? 冷たいの貼るけど、取っちゃダメだよ?」  まるで我が子を扱うように、慈愛の眼差しで詩乃はテキパキと、少年を介抱していく。  和室の布団に改めて寝かせ、そちらの電気を消して障子を閉じると、ふうっと安堵したように、居間の柔らかいソファに座った。 「貴方もどうぞ、座って。陽子さんは大らかな人だから、大丈夫よ」 「……」  悪魔はちらりと、障子の閉められた和室を見やる。 「アイツのこと……みてなくていいの?」 「今日はずっと、陽子さんが帰るまではここにいるわ。何かあれば、気配でわかるから」  当たり前のようにさらりと、人間らしからぬ台詞を言う。悪魔にその意味が通じるとわかってのことだろう。  どうもこの人間の女性には、危機感というものが全くない。悪魔をエンジェルと呼ぶ辺り、とても危うい勘違いをしている気がする。 「……教会の方は、ほっといていいの?」 「あそこは私の義父が牧師をしているの。義母にも陽子さんのことは話してるから、別にわたしがいなくても気にしないわ」  その話からすると、詩乃が人間ならぬ「力」の持ち主だと、教会の者達は知らなさそうだった。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加