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「最近は特に、忙しいと言っていたけど……こんな時まで急な仕事なんて、陽子さんだって、辛いでしょうに」
眠りこけた少年を抱えて、つながる和室に詩乃が入っていく。
この少年をよく詩乃に預けて、母親は仕事に行くようだが、今日は教会に連れてくる余裕もなかったらしい。
詩乃に抱きかかえられて、安心したのか、眠りながら少年がぐずりだした。
「ごめんねユウくん、眠いねぇ。ちゃんと水分はとってるのかな? 冷たいの貼るけど、取っちゃダメだよ?」
まるで我が子を扱うように、慈愛の眼差しで詩乃はテキパキと、少年を介抱していく。
和室の布団に改めて寝かせ、そちらの電気を消して障子を閉じると、ふうっと安堵したように、居間の柔らかいソファに座った。
「貴方もどうぞ、座って。陽子さんは大らかな人だから、大丈夫よ」
「……」
悪魔はちらりと、障子の閉められた和室を見やる。
「アイツのこと……みてなくていいの?」
「今日はずっと、陽子さんが帰るまではここにいるわ。何かあれば、気配でわかるから」
当たり前のようにさらりと、人間らしからぬ台詞を言う。悪魔にその意味が通じるとわかってのことだろう。
どうもこの人間の女性には、危機感というものが全くない。悪魔をエンジェルと呼ぶ辺り、とても危うい勘違いをしている気がする。
「……教会の方は、ほっといていいの?」
「あそこは私の義父が牧師をしているの。義母にも陽子さんのことは話してるから、別にわたしがいなくても気にしないわ」
その話からすると、詩乃が人間ならぬ「力」の持ち主だと、教会の者達は知らなさそうだった。
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