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「あそこの結界は……あんたが張ったんだろ?」  人間界ではそう多くない、きちんと聖域と化させられた神の館。もっと大規模な所ならわかるが、あんな住宅街の一角に、本格的な結界がある場所は相当珍しい。  その術者が、気楽に結界から離れていても良いものかと、悪魔は先程尋ねたのだ。  しかしそんな、命綱であるはずの結界も、詩乃にとっては大きな問題ではないようだった。 「今はわたし、主人が単身赴任で、娘も祖父母に取られてて……仕方ないとはわかってるけど、一人は淋しいから、お世話になってるだけなの」 「……」 「だからユウくんに、娘の姿を重ねちゃうの。ユウくんもしきりに教会に来たがって、陽子さんにちょっと、申し訳ないんだけど……」  つまり詩乃は、実の母親以上に、あの少年を猫可愛がりしているらしい。 「早く大きくなって、わたしみたいに洗礼を受けたいなんて言うの、ユウくんたら」  ソファと和室の間で立ちっぱなしの悪魔に、詩乃は黒髪の少年に向けるような柔らかい笑顔を浮かべた。 「あなたはひょっとして、ユウくんの守護天使だったの?」 「……え?」 「あなたとユウくん、何だか似てるから。別に、守護天使だから似るなんてこと、ないとは思うんだけど」  詩乃には悪魔の姿は、少年と同じ黒髪で灰色の目――「翼槞」のままで見えているらしい。確かにそうでなければ、先日の学生と同一人物とはわからないだろう。「翼槞」もさぼったままではないことを、そこで悟る。
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