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 動揺を必死に抑える悪魔は、詩乃に咄嗟に、冷たく答えることしかできなかった。 「……知らないよ。そんな、紅い目なんて、天使のことは」  それは半分、嘘ではない。新参者の「汐音」は、その天使に直接会ったことはない。  たとえ悪魔が、この人間界にいる理由は、そのためだったとしても――  もうその天使は存在しないと、どうしてわざわざ伝える必要があるだろうか。  詩乃は不思議そうに、そうなの? と、眉をひそめて息をついていた。 「教会の結界も、彼女が残してくれたものなの。わたしはそれを、維持しているだけ」  その話で悪魔はようやく、先程の自身が、教会に踏み込めなかった理由がわかった。  悪魔のような人外生物から、世界の秩序を守るもので、大きな派閥の一つが天使だ。実体なき天使に本来性別はなく、高次元の存在である天使は、数多の世界にその勢力が及ぶ。  この「力」なき人間界で、聖なる守護があんな世界の片隅に及ぶのは珍しい。あからさまな女の子の姿など、色々と規格外だった、紅い瞳の天使らしい仕事と言えた。  詩乃はそこで、怪訝そうに首を傾げる。 「それじゃ貴方は、どうしてわたしに、ここまでついてきてくれたの?」  悪魔が何故、詩乃の存在に興味を持ったか。「力」を有する珍しい人間に、殺意を持ってとは、さすがに答えるわけにはいかない。 「別に……単に、暇だったし」  今の悪魔に大事なのは、しばらく住むこの町での安全だ。詩乃に悪魔への敵意が無いなら、それでいい。
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