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 詩乃の「力」も、いったい何を考えているのかも……紅い瞳の天使との事情も、今となってはどうでも良かった。  この相手は、排除できない。それなら共存の方途を探さなければいけない。  紅い瞳を探し求める本体の心は、あの天使が残した結界を維持できる者を、傷付けることを望まないだろう。 「帰る……オレ」  尋常でない気配を感じるのは、詩乃だけではない。熱を出して寝込んでいる和室の少年も、あの幼さで既に何かの「力」を感じる。  特に少年の方は、間近で気配を探って段々と、驚くべき事実がわかってきた。  わかったというより、やっと自覚できたというのが正しいかもしれない。 ――貴方、どうしてユウくんに似ているの?  詩乃の言葉は、顔形の意味だけではなかった。確かに容姿も近いのだが、そもそも少年は幼過ぎて、悪魔と似ているとすぐにはわからないだろう。  だから同質なのは、悪魔と少年の、その気配だった。  本質的には、詩乃との出会いより、少年との遭遇の方が運命の悪戯だと言えた。  それを感じているのか、いないのか。  居間を出て行こうとした悪魔を、何処か哀しげに見つめる詩乃が、素早く引き止めていた。 「……待って。一つだけ、貴方のことを教えてほしいの」  立ち上がった詩乃が、ちらりと一度和室を見てから、悪魔の後ろ姿を見つめる。 「貴方はどうして、この町に……人間の世界にいるの?」  悪魔が人間でないことを、初めからわかっていた者に、それは当然の疑問だった。
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