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人間界に翼の悪魔がいる理由。その「力」を弱められ、人間程度を脅威に感じてまでも。
今回は、相方の妹のことを頼まれたからだ。それほど悪魔は何度もここに来て、人間界に慣れているのだ。
「…………」
けれどここで、本来の理由を話せば、先刻嘘をついたことが無駄になる。
黙って立ち去ればいい。そう思いながら、口は勝手に、その思いを声にしていた。
「……隣の部屋の、アイツみたいな奴を探して。……それだけ、だよ」
悪魔と同質の気配を感じる、幼い黒髪の少年。
その存在だけで、翼の悪魔が人間界を訪れる理由が、強化されたのは確かだった。
見つめる詩乃は、何も理解していないだろう。人間なりの神眼であっても、それは心を見透かす類ではない。
「やっぱり貴方……ユウくんと、何かあるのね?」
探していたのは、あの少年ではない。しかし現に、出会ってしまった。
今は翼の悪魔の事情はどうでもよく、相方とその妹が最優先であるのに。
これ以上は深追いしない。己にそう言い聞かせ、詩乃を置いて玄関まで出た悪魔だったが。
「ただいまぁ! ごめんね詩乃ちゃん、開店だけ手伝って帰らせてもらった!」
間が悪く、この家の主が、勢い良くドアを開けて飛び込んできた。
主は当然、見知らぬ学生服の者がそこにいることに驚き、大きく目を見開いて――
「えっ……勝一!?」
口にされた謎の名前に、またも悪魔は、足を止められることになったのだった。
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