_4:

10/10

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
 人間界に翼の悪魔がいる理由。その「力」を弱められ、人間程度を脅威に感じてまでも。  今回は、相方の妹のことを頼まれたからだ。それほど悪魔は何度もここに来て、人間界に慣れているのだ。 「…………」  けれどここで、本来の理由を話せば、先刻嘘をついたことが無駄になる。  黙って立ち去ればいい。そう思いながら、口は勝手に、その思いを声にしていた。 「……隣の部屋の、アイツみたいな奴を探して。……それだけ、だよ」  悪魔と同質の気配を感じる、幼い黒髪の少年。  その存在だけで、翼の悪魔が人間界を訪れる理由が、強化されたのは確かだった。  見つめる詩乃は、何も理解していないだろう。人間なりの神眼であっても、それは心を見透かす類ではない。 「やっぱり貴方……ユウくんと、何かあるのね?」  探していたのは、あの少年ではない。しかし現に、出会ってしまった。  今は翼の悪魔の事情はどうでもよく、相方とその妹が最優先であるのに。  これ以上は深追いしない。己にそう言い聞かせ、詩乃を置いて玄関まで出た悪魔だったが。 「ただいまぁ! ごめんね詩乃ちゃん、開店だけ手伝って帰らせてもらった!」  間が悪く、この家の主が、勢い良くドアを開けて飛び込んできた。  主は当然、見知らぬ学生服の者がそこにいることに驚き、大きく目を見開いて―― 「えっ……勝一(しょういち)!?」  口にされた謎の名前に、またも悪魔は、足を止められることになったのだった。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加