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 人外生物である悪魔の棲む異界と、人間界とは、いびつな鏡合わせと言えた。  近くて遠い、逆しまな世界。「力」が理の異界と、「力」を否定する人間界。  地獄と裏表であるのが異界なら、天に近いのは人間界だ。しかし人間界は、「力」という核……全ての世界の軸に背を向けて近接しており、軸に迷い込み易いが「力」は底にしか流れず、天に近いわりには加護も薄い。  以前にやっていた仕事柄、世界のそうした薀蓄を、悪魔は元上司から教えられた。  他にも異世界はあるが、悪魔の故郷と繋がりがないため、天使や「神」など、高次存在でない限りは行けないのだそうだ。  行き来できる中では最も遠いが、生活形態は似ている人間界。それを鏡合わせというのは、人間界と異界には、不思議と一人ずつ、対のような存在……右手と左手のように、「違うけど同じ」者が現れることが多々あるからだという。  立ち尽くす悪魔と同質の気配を持った、あの黒髪の少年のように。 「えっ……勝一!?」  急いで帰ってきたらしい少年の母は、玄関先で立った学生服の悪魔に、謎の名前を叫んだのだが……その直後に、口元を両手で押さえて、悪魔の姿をまじまじと見直していた。 「あっ……ごめんなさい、全然、違うわよね。この間の教会の、学生さんよね……」  出てきた詩乃が後ろに立って、少年の母は、悪魔が詩乃の連れとすぐに察したらしいが――  その声は何故か、涙を堪えるように震えていた。
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