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 きょとんとするしかない悪魔の後ろから、詩乃が間にすっと入った。 「お帰りなさい、陽子さん。ユウくんはまだちょっと熱があるけど、今は静かに眠ってるわ」 「そっか。本当にまた、急にごめんね、詩乃ちゃん」 「この子は洗礼の相談に来てたの。急だったから、一緒に連れてきちゃって……でも、勝一くんって、陽子さんの弟さんのこと?」  動揺している少年の母――陽子に、詩乃が適当なことを言いながら、さりげなく状況を尋ねている。  見知らぬ者の存在自体は、全く気にしていなさそうな陽子は、本当に大らかなのだろう。それでも動揺しているのが、詩乃から見ても珍しいことだと見えた。  その理由はどうやら、悪魔が学生服を着て、玄関にいたのが大きいらしい。 「あはは、びっくりしちゃったわ。もう昔のことなのに、うちに高校生の男の子なんて……勝一がふてくされた顔で、お帰りってよく言ってくれたの、思い出しちゃった」  陽子の声は、とてもからっとしている。しかし今日は、熱を出した息子への心配もあいまって、元々余裕がなかったのだろう。  その話をし始めてすぐ、陽子の目から涙が零れていった。 「あの頃はいつも、うっとうしいって思ってたけど……親になったら今なら、勝一も辛かったんだって、わかってやれるのに……」  泣き笑いをしながら、靴を脱いで家に上がる陽子を見て、その弟は死んだのだと悪魔には何となくわかった。
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