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 涙ぐむ陽子の肩を、詩乃が後ろに回って支える。 「しっかりして、陽子さん。勝一くんのことは陽子さんのせいじゃないし、だから陽子さんも、ずっとここに住んでいるんでしょ?」  女手一つで息子を育てている母が、親子で住むには珍しいだろう一軒家。  弟も昔住んでいたということは、実家なのだろう。しかし両親が同居していないのは、何やらわけありの様子だった。 「…………」  普段は気丈そうな陽子のことが、詩乃は心配になったのだろう。今日は泊まって良いかと、陽子に尋ねていた。 「ありがとう、詩乃ちゃん。本当にいつも、ありがとうね……」  黒髪の少年の、熱自体は大したことがなさそうだが、親というのはそれくらいでも動揺して弱るらしい。人造の悪魔でも、この翼の悪魔だからこそ、その痛みはよく伝わってきた。 「それじゃ……オレは、これで」  こんな母や、詩乃のような第二の親に恵まれている少年は、それだけで幸せだろう。  むしろ大人達の方が危うげで、穴だらけだった。満たされない何かを抱えながら、互いに助け合っているように思えてならなかった。 「…………」  悪魔の内で、「悪魔」としての触手が、久々に闇に紛れて伸ばされていく。 「これは……食事にありつける、かもね?」  門を出て、振り返った普通の家は、何の気負いもなくそこに構えているのに――  内に在る者達の心は、些細な引き金で足場をなくすように、今も揺れ動いていた。
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