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 相方に流す「力」をセーブすることもできるが、この人間界では相方も五分の一しか、世界に流れる「力」を受け取れない。そのために、悪魔から知らずに多くを求めているのだろう。  人外生物の「力」とは基本的に、人間が酸素や食物を必要とするように、世界から与えられるものだ。悪魔と相方のように、ヒト同士でやり取りすることはそう多くはない。 「……帰ろっか、ツバメ」  無難に生活していくために、働き手になってもらう相方を、早々へたばらせるわけにはいかない。  そうなると、ここは自分が踏み堪えるしかない。「翼槞」なら考えそうにない結論を出した悪魔は、相方に気取られる前に立ち上がった。  相方自身、初めての人間界で余裕がないので、悪魔の不調にはあまり気が回らないようだった。  これはなるべく早い内に、食事を探さなければいけない。  川辺から歩道に上がる階段に向かいながら、頭を悩ませていた悪魔だったが……その視界の隅に、ふっと、思わぬ人影を捉えることになった。 「…………あれ」  悪魔と相方がさっきまでいた暗がりを作る、何の変哲もない低い橋。  その上で一人、夜の川面を見つめている、何の変哲もない人間がいた。 「…………」  あまりに普通の人間で、気配も拙いために、その女性が真上にいることに気が付かなかった。  悪魔が後にする暗闇の川を、眠る子供を置いてまで来たらしい陽子が、物憂げに見つめていたのだった。
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