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 そんな形のない悪魔を、ソレは哀れに思ったらしい。  わざわざそこに現れた理由を、苦く笑う声色となって不意に言ってきた。 「アンタのその痛みは、同じ予感だよ。もう一度、大切なものを失うかもしれない……だから、注意すれば?」  覗き行為自体は悪趣味だが、それは一応、忠告であるらしい。  段々と気配を薄らがせて消えながら、声の主は、最後に重大な事を伝えていった。 「……こっちに来たら、存在が揺らぐよ。『力』が弱まる、山科ツバメは――」  その内容は少々、聞き捨てならなかった。  今度こそ悪魔は顔を上げて、声の主を呼び止めるために、ぱちっと重い両目を開けたのだが……。 「おい、おまえ。約束を破って昼まで寝てるかと思えば、人様の部屋に無断でカラスまで連れ込んでるのは、いったいどういう了見なんだ」  そこにあったのは、痛く不機嫌そうな顔付きの黒い医者。  それに加えて、横向きに寝ていた悪魔の前にいる、今にも顔をつつきそうな黒い鳥の姿だった。 「……って……ほ、え?」 「ほえ、じゃない。いくらその顔でも、出していい声と悪い声がある」  悪魔には覚えのない黒い鳥は、黒い医者から逃げるように、ばさばさと部屋を出ていってしまった。  久しぶりに昼まで惰眠を貪ること自体は、とても気持ちが良かったので、痛く残念だった。おかげでさっぱり、夢の内容など忘れてしまった悪魔だった。
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