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ツバメは昔から、勘が良いと言われる。五感で観える周囲の様子から、普通の者より多くの情報を得ているという。
そのためどこに行っても、難しくないことなら、仕事の飲み込みは早い方だった。
ツバメの働く姿を、多少なりと見ているキカリさんは、それを感じていたらしい。突発の仕事、家に送り届ける道すがら、羨ましい。と、小さな愚痴を話し始めた。
「ツバメくんは、色んな仕事ができていいねぇ。ワタシはねぇ、バカだから、なかなか転職できないんだぁ。本当はもっと、都会に出ていきたいんだけどねー」
「いや……俺、何もできないけど」
八百屋の仕事なら難しくないと言うが、店主の采配を見ているとそうは思えなかった。ツバメは簡単なことをさせてもらっているだけだ。
野菜のことなどほとんど知らない。ただ、持ち前の直観で新鮮さや、店主の意図が何となくわかるのは、おそらく役に立っていた。
だからキカリさんには、ツバメは仕事ができると映っているようで――
「ワタシなんて、愛嬌しか武器がないんだからぁ。でもそれも、最近は怪しくなってきちゃったなぁー」
でもそれは、今こうして、目前のキカリさんが落ち込んでいるのが強くわかるだけだ。
五感に依存するツバメの直観には、目に映る相手の様子が一番よく引っかかる。ツバメはとかく、空気を読み過ぎだ、と友人達に言われたこともある。
キカリさんが、何にそんなに落ち込んでいるかは、わからなかったが。
「キカリは、いい奴だから。それでいいんじゃないのか?」
今夜の件でも感じた思いを、ツバメはそのまま口にする。
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