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 詩乃のいる教会に向かう途中で、何とも都合の良いことに、悪魔はその女性に出会ってしまった。 「あれ。詩乃ちゃんところの教会の、学生さんじゃない?」 「……――」  大きな買い物鞄を肩に、河川敷で休んでいた女性。その姿を見るや否や、悪魔の足はぴたっと止まった。勝手に道を逸れて、日中の太陽を避ける高架下に向かっていく。  わざわざ一般道から降りてきた悪魔に、何処にでもいそうなクセ毛の茶髪の女性が、明るく笑いかけてきた。 「こんにちは。昨日はごめんね、急に変なこと言って」  昨夜に詩乃と邪魔した家の、主である陽子は子供も連れておらず、あの後と同じように一人で川面を眺めていたのだった。 「そう言えば、名前さえ聞いてなかったよね。君は詩乃ちゃんの、後輩か何か?」  詩乃も陽子も、二十代前半と、子供を持つ身にしては若い。大きな「力」を感じる詩乃には警戒が先立ったが、陽子に対しては、何だか不思議な距離感があった。 「……違うよ。オレはちょっと、詩乃サンに、神様のことを教えてもらおうと思っただけ」 「あら、そうなの? うちの夕烏もね、神様のこと教えてー! ってうるさいのよ、最近」  朗らかに笑う女性は、言ってみれば、悪魔と鏡写しの存在の実の母……悪魔にしてみれば、自らの母に近いと言えるかもしれない。  そんな相手に、悪魔が目論むことを実行していいかは躊躇われたが、この機会を活かさない手はなかった。
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