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 そんな陽子は、翼の悪魔が人間を相手に、初めて内情を話したことなど気付いてはいないだろう。  悪魔が人間界に来るのは、ただ、探していたからだった。  悪魔の故郷に、かつて存在していたヒト……あの紅い瞳の天使と鏡写しの「同じ者」が、この鏡合わせの人間界ならいるかもしれない。それだけが、悪魔がこの世界を訪れる理由だった。  それがどれだけ途方もなくて、成算のない探し人であっても。 「見つけたかったのは……自分(オレ)じゃないんだけどさ……」  おそらく悪魔と同質の気配を持つ、まだ幼い黒髪の少年。最後は小さく呟いた悪魔を、座っている陽子が不思議そうに見上げてきた。  日中で明るいわりには、陽子が座っている場が、陽子を中心として木陰のようにわずかに暗くなった。  自らの「力」で作るその不自然な暗がりを、悪魔は「錠」と呼ぶ。この影の内にいれば、今はもう悪魔の事も陽子の姿も、周囲には見えていないはずだった。  改めて悪魔は微笑みを作ると、悪魔がこの地で手がける唯一の「仕事」を、やんわりと始める事にした。 「おねーさんの子供が、神様の子供になったら、おねーさんは困るんじゃないの?」  この「仕事」をするには、相手の心の隙をつかなくてはいけない。悪魔はいつも直感的に、天性だけでそれをしていた。  気の向くままに尋ねた悪魔に、陽子が苦笑いながら答えた。 「あははー、そうなのよ。うち、確か真言宗なのに、夕烏がクリスチャンになるなんて言ったら親が吹っ飛ぶわねー」
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