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翼の悪魔の影に包まれて、血の気のひいた顔で陽子が倒れた。それを受け止めた悪魔に、不意に背後から、とても不審げな声がかけられていた。
「……何、それ? ……汐音」
膝立ち状態で陽子を抱えている悪魔の後ろ、橋の下の暗がりに、いつの間にかその相方が来ていたようだった。
「そいつに何したんだ? ……殺したわけじゃ、ないんだろ?」
本来この場――悪魔の影が閉ざす領域には、誰にも入り込まれることはない。
悪魔が唯一、その「錠」を開く「鍵」として認めた者、この金髪の相方だけが例外なのだ。
そう言えば相方に、翼の悪魔の人間界での「仕事」を見せたことはなかった。訝しそうにする相方の前で、陽子をコンクリートの上に寝かせてから振り返り、悪魔はあえて爽やかな顔で笑った。
「これは『悪魔狩り』だよ、ツバメ。オレの唯一のご飯とも言うけど」
何事もないように言うと、勘の良い相方は、なるほどとすぐに察する顔を見せた。
眠っている人間――陽子が何であるかは、おそらく全くわかっていない。けれど、悪魔に血を奪われたことと、それが致命的な量でないことは気取っている。
それに加えて、悪魔が陽子を食事に選んだ理由も、偶然ではないものとわかってくれたようだった。
それならこのまま、相方に事後処理を頼むことも可能だった。
「そいつ、ここに一人で放っといたら、まずくないのか?」
「当然まずいね。悪いけどツバメ、目を覚ますまで、ちょっとそばにいてやってよ」
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