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 陽子の血はなかなか美味しかったので、今後是非得意先になってほしいが、黒髪の少年にはなるべく出くわしたくない。これは何処か、本能的な恐れだった。  だから今も、夕方にあの少年が預けられる前に、悪魔は詩乃の元へと向かっている。  人間界で無難に生きていくために、詩乃と再び会おうと悪魔は思った。それには様々な意味があった。 「排除するわけにはいかないなら……できれば契約、したいところ」  紅い瞳の天使が残したあの教会の結界を、悪魔はこの先も詩乃に維持してほしい。それは「翼槞」も同意見で、とどのつまり、悪魔は音戯詩乃という人間を守る必要があった。 「他の悪魔に渡すわけにはいかないね。……案外あっさり、堕ちちゃいそうだしね、詩乃サン」  まだ二回会っただけだが、悪魔にはもう確信があった。  詩乃は陽子が何処かで怖れる通り、ずっと脆い人間に感じられた。一人で教会――義父母の元に身を寄せているのは、自らをあえて縛るためだろう。 ――一人は淋しいから、お世話になってるだけなの。  今はただ、陽子の息子を度々預かる事で、気を紛らわせることができているだけだ。  この先陽子が本気で、父親役の誰かを見つければ、詩乃が心を向ける先が無くなる。夫や娘が帰ってくるのは、そう近い話ではない孤独感が、憂い気な詩乃の根底にずっとあった。
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