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自ら悪魔を呼んでいた詩乃は、出会って間もない翼の悪魔を、あっさりと自室に上がらせる無防備さだった。
「来てくれてありがとう、エンジェル。貴方になら、わたしの謡が届くと信じていたわ」
見た目はわりと凛としたタイプであるのに、詩乃の気配は台詞の通りで、悪魔の来訪をとても喜んでいる。
今まで他の悪魔に騙されなかったのが不思議なくらい、はっきり言えばユルユルだった。この「力」と真面目そうな眼鏡で、何とか軽い連中を遠ざけていたのだろう。
なので「翼槞」はつい、呆れながら尋ねずにいられなかった。
「あのさ。オレ、危ない奴だって、あんたは初めからわかってるよね?」
「ええ、勿論よ。一番最初なんて、殺されるんじゃないかって思ったくらい」
わかってるんじゃないか。あからさまに顔をしかめる悪魔に、詩乃が柔らかく笑う。自室にいるせいか、その笑顔はなおさら緩められたものだった。
「でも、わたしと貴方が出会ったことそのものが、神の導きだと思っているの。ユウくんはきっと、ここに来させ続けること、陽子さんが気にしているから……そんな時に、ユウくんと同じ気配を持つ貴方が現れるなんて、もしも悪魔の誘惑でも、運命としか思えないもの」
それが運命的であるなら、「翼槞」の正体が何であれ、詩乃はかまわないらしい。
危害が他に及ぶのはまずいが、自身のことは心配していない。その気楽さが余裕のなせる業か、捨て鉢なのかはわからなかった。
すっかり意思が逆転してしまったが、詩乃がそんな危うさでは心許ない。この教会の結界をしっかり維持してもらうために、先程から表立った「翼槞」は直球に、その目的を口にしていた。
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