_終:

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「……オレと契約する気、ある? あんた」 「――? 貴方と、契約?」  黒髪の高校生に見えているはずの「翼槞」をベッドに座らせ、床に座る詩乃が、ぽかんとした顔で見上げてくる。  こうして呼び付けたからには、詩乃にも何か目的があるのかと思ったが、純粋にただ、会いたかっただけらしい。火遊びをする子供かと、思わず突っ込みたくなった。 「早い話、オレは悪魔だよ。でも、悪魔を殺す悪魔だから、あんたの役には立てると思うよ」 「……――」 「あんたに近付く悪魔の誘惑を、オレが絶つ手伝いをする。オレにも相方がいるから、度々は無理だけど……詩乃サンが望む限り、なるべく会いにくる。その代わりに、詩乃サンにもしてもらいたいことがある。……それで、どうかな」  途中から意識して笑顔を作り、名前で呼ぶようにすると、みるみる詩乃の顔が赤くなった。  娘のいる人妻のわりに、その反応は初々し過ぎるが、「翼槞」は情にほだされる方ではない。冷静に詩乃を見つめていると、詩乃の方が目を逸らして俯いてしまった。 「……貴方の言う通り、わたしは弱くって。よく、陽子さんが羨ましくなるの」  詩乃ははっきり口にしないが、それは陽子が独り身で、親になっても奔放に異性関係を持っていることをさすようだった。 「別に、温もりがほしいわけじゃないの。ただ、誰かに頼りたくて……わたしが本当はどんな人間で、どんな世界を視て生きているか、いつでも話せる相手がほしいの」  人間にはない自身の「力」。その家系の呪いを、詩乃は夫にも話していないと見えた。人間世界で自身が異端と示すことは、それだけリスクが大きいのだろう。  それでも誰か、真に心許せる者を見つけたい。若くして身を固めるまでは、次から次に男を探し、わりと軽薄に生きた過去もあるようだった。
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