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「よくわからないけど……そういう事を話すために、神はいるんじゃないの?」 「わたしもそう思っているわ。でも、悪魔の誘惑に負けそうになるの」 「それじゃあ……神様って、いったい何なのさ?」  詩乃はかなり、信仰の厚い方に思えた。  それでも出自は神道の家系らしく、だから今は、娘と関われないのだろう。娘を奪われて抵抗できないのは、娘におそらく、実家で受けさせるべき修行がある――「力」を使いこなす過程が必要だからだ。  どちらも「神」の家だろうに、厳然と存在する何かの違い。  そしてどちらも、今の詩乃を救ってはくれないのだ。夫と娘のいない生活を、詩乃が耐え難く思っているのは確かだった。 「主は、ただ、『在る』ものなの。その御心を受け止められないのは、わたしの責任なの」  両手を祈る形に握り締める詩乃は、「翼槞」との契約に全面賛成らしい。悪魔だと名乗っているのに、あまりに籠絡が早い。  それでもそれは、顔を上げた詩乃にとって、ぎりぎりのラインであるようだった。 「悪魔の力を借りて、悪魔の誘惑を絶つなんて、情けないけど……わたしは貴方に、何をすればいいの?」  震えながらも力強い声には、このまま淋しい世界を生き抜いていくための、詩乃なりの決意がこもっている。  契約を交わしても、詩乃が悪魔に堕ちることはないだろう。そうなると残念ながら血はもらえないが、それはそれで仕方がなかった。  「翼槞」は作り笑顔を消すと、詩乃の目を見返して、静かにその要求を告げた。 「……ここの結界を守って、オレの逃げ場にしてくれること。できればオレに、あんたの知ってる『神』の『力』を教えてくれること」 「……え?」 「オレ、あんたの言う通りに翼はあるんだけど、使えてなくてさ。それが見える詩乃サンなら、少しくらい使い道、わかるんじゃないの?」
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