_終:

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 ……そんな、こと? と、詩乃はとても拍子抜けしたようだった。いったいどんな代償を求められると思っていたのだろう。  翼の悪魔にとっては、「力」が五分の一とされる人間界では死活問題だ。その実情を教える気はないが、この世界では、この世界で通用する「力」がいる――特に、「汐音」という新たな可能性が生まれた悪魔には、その「意味」が必要だった。  「黄輝」の名を受けている翼。「聖」の割合が大きい「力」を、弱められずに使う方法――この世界での様式を教えてくれると、詩乃は盟約を結んだ。  それを習いに悪魔が教会に通うだけでも、詩乃の気は大分紛れるだろう。大体平日の放課後に行くことになり、無事に契約が済んだ悪魔は、相方が待つ川辺へ夕暮れ時に戻っていった。  一人で橋の下に座っていた相方が、悪魔の姿を見つけて、とても不服そうな顔を浮かべた。 「汐音……これ、暇」 「ごめんごめん。陽子サン、無事に起きた?」  あれから陽子は、ほどなく目を覚ましたらしい。それを見送った後は、全てただの待ち惚けになり、勤勉過ぎる相方は、何もせずに休んでいるのが苦痛だったのだろう。  相方の顔を見ると、詩乃の前ではずっと出張っていた「翼槞」が、すぐに引っ込んでしまった。  何で。と思ったが、「汐音」に拒否権はない。目が覚めているのに眠る方法は知らない。それも他の意識との違いだろうと思われた。  あくまで「汐音」は異端なのに、当分こうしてメインに動かなければいけない。裏で手を引く主導はおそらく「翼槞」だが、顔となるのが「汐音」だった。
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