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 色々と思うところはあったものの、特に何も言えないまま、キカリさんの家についてしまった。  それじゃ、と笑ったキカリさんは、既に以前通りのキカリさんに戻っていた。 「気を付けて帰ってねぇ、ツバメくん!」  がしっとツバメの手をとると、大きなコインを一枚握らせてくる。  思っていたより高額で、これだとコンビニでも猫缶が二つは買える。  ありがとうと笑うと、何故か妙に嬉しそうに、二階建てのコーポの二階へ上がって行ったキカリさんだった。  思わぬ安易な労働の対価を、ツバメはじーんと握りしめた。 「これ……明日、朝一で店が開くまで待てば、三缶パックも買えるよな……」  朝ご飯を買って戻る、その少しの時間を野良猫が待ってくれるか、首を傾げて真剣に悩む。  とりあえず、ほとんど知らない土地で迷うことのないよう、来た道を正確に駅前へと引き返す。  暗いので目印も少しあやふやだったが、見慣れた商店街が見えてくると、今夜のノルマ達成も手伝って大きくほっとした。  この町に来てから、外出時に気を抜いたことは、今まではほとんどなかった。  ここは――この日本自体が、ツバメが住んでいた場所とはあまりに違う。ごく一部、雰囲気が近い地域もあるらしいが、まだ行ったことはない。  その違いに慣れつつ、右も左もわからないまま働くことに必死で、それに比べれば今夜のような仕事はあまりに容易かった。
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