16人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
人の世には人の数だけ、答がある。処刑人たる翼の悪魔には、そう感じられた。
「この世界はどこも、悪魔だらけだよ。『悪魔狩り』なんてもう完全に、必要ないくらいに」
「力」という制約――神秘に縛られない人間は、何をしようと神に赦された存在なのに、自由過ぎると逆に迷子になるのだろうか。代わりに足場を「自らの価値」に求め、「向上」に縛られる多くの人間がいるというのが、翼の悪魔から見える人間界の在りようだった。
別に誰も、無闇に人を裁くことはない。悪魔であろうと、「神」であろうと。
隣でグロッキーになっている相方のように、わけがわからず立ち尽くせばいいと、ふっと思った翼の悪魔だった。
「ひょっとしたらオマエの悪魔も……この世界にはいるかもしれないね?」
対となる者が現れる、鏡合わせの人間世界。最も近く、さかしまであるもの。
そんな事とは露も知らないだろうに、相方はげっそりと答えたのだった。
「本当に出てきそうだから……世も末だ……」
苦労性の相方に、悪魔はいつも通り気楽に笑った。
「そうかな? もし出会えるなら、オレは面白いけど」
たとえそれが破滅の足音でも、今の悪魔なら楽しめるだろう。この世界で走り続ける人間達と、きっと同じように。
そのためにこの悪魔――「汐音」は生まれたことを知る、長い約束の日が来るまでは。
翼の悪魔と相方の新生活は、まだまだ、始まったばかりだ。
Case.I 了
<別版>https://estar.jp/novels/25542490/viewer?page=1
最初のコメントを投稿しよう!