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だからつい、そんな幸運があったことへの、温かな気の緩みに――
その黒い不穏は、容赦なく彼を襲ったのだろう。
駅を後にし、安アパートへの帰路につく。
何度も通った道のために、更に油断が増していた。
夜にはいつも、交通量の少ない十字路だったというのに……。
「――……え?」
有り得ない気配に、胸がざわついた時には、既に遅かった。
ツバメの直観を支える五感、その最たる視覚が、突然暗く閉ざされていった。
「……――!」
まるで、真っ黒い大きな翼に、目隠しをされたかのように。
横断歩道の白線が、急に見えなくなった。
自分が何処にいるかもわからなくなり、立ち尽くすしかない異邦者を――
信号の無い交差点の中、迂闊に立ち止まった彼を、夜を駆ける大型バイクが撥ね飛ばしていった。
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