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――いい? 誰相手にも、気を許したら駄目よ?  とても朴訥で、誰かに利用されやすい彼に、心配性な彼女は何度も念を押した。  本当はついていきたいほどだと言った。まず、彼がこれから同居する相手自体、油断ならない者だと知っていたのだろう。 「あーあー……オレの猟犬くんはホント、よく『仕事』を見つけてくるねぇ?」  誰相手にも。特にこの相手こそ、気を許しては駄目だと言われていた。  黒い道路に佇む、夜より昏い暗影の持ち主。  冷たい地に臥す彼と、そばでうろたえる人間の男に、それはあまりに気軽な警鐘を発する。 「お前、それで……ひょっとして、逃げるつもり?」 「ち……ちが、そんな……!」  人影は、土曜の夜には不釣り合いな、白黒の学生服を着ている。両手に指の出る黒い手袋をはめ、右手首に銀の腕輪が光る。  すらりと適度な身長は、暗夜の街灯を背に、長くて真っ暗な影を落とす。そうして人影は十字路の奥から、中心にいる彼と人間の男を、細い両腕を組んで見下げる。  倒れ伏す彼と、バイクから降りた人間の男は、今やどちらも微動だにできない状態だった。  すぐ横に鎮座するバイクには、まだ鍵がささっている。人間の男はいつでも、ここから離れていける。  もしもお金が沢山あれば、アレを買ってみたい。人影が以前そう言っていたので、バイクという乗り物については、彼も少しは知っていた。
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