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 撥ねた彼に声をかけたものの、大きく動揺している人間の男は、辺りを見回して人目を確かめていた。  そんな男が捉えたのが、とても不自然なその人影だった。数秒前までは決して、場にそんな気配は微塵もなかった。  人影は楽しげに、彼らの観察を呑気に続ける。  バイクの人間が、果たして逃げようとしたのか、助けを呼ぼうとしたのか。どちらとも判別のつかない男を、それはやがて、根拠もなく断罪する。 「駄目だよ、そんな悪魔の囁きに乗っちゃ? そんなことすれば、お前も悪魔になっちゃうんだから」 「な……は……!?」  人影の足元から伸びる暗闇が、彼と人間の男の足元で、急激に左右に広がる。  月明かりもない朔夜、街灯だけで、そこまで暗く――大きくなるはずのない影。  影の形だけを見れば、まるで、大きな翼を広げたかのようだった。 「悪魔になんて、なっちゃったなら……もれなくオレに、狩られちゃうから?」  彼のことも、人間の男も、自身の影で呑み込むそれがくすりと笑う。   その微笑みだけで、時が凍った。  この世の人の常識を超えた、人ならぬものとの邂逅。  ぴくりとも動けず、震えあがる人間の男に、それは引き裂かれた笑みをたたえる。  そうしてやがて、闇黒の影はゆらりと踏み出し、彼らの方に近寄り始めた―― *
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