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 見知らぬ異邦者を撥ねた、バイクの男が大きく動揺していた通りに。アスファルトに倒れ伏す金髪の青年は、間違うことなく死んでいた。  体は冷たく、呼吸をしていない。見るものが診れば、脈も皆無で、心臓が動いていないとすぐにわかっただろう。 「いっ……て、ぇ……」  それは彼にも、とてもよろしくない事態だった。  食事一つも摂れない、人間ではない体。全身に血が通っていないのは、元々の話だった。  しかしそれでも、皮膚は裂けず、骨も折れていない方がいい。生きていない体とは、一度損傷してしまうと、その後の修復が面倒なのだ。 「あー。やっと起きたー? ツバメ~」  動けない間に運ばれた安アパートで、朝の鳥の声もとっくに止んだところに、呑気な相手の呼びかけが響いた。  うつぶせのツバメは寝かされた布団のシーツを、まず必死に掴んでみた。 「起き、ては……ずっと、いた、って――……」  とにかく、呻くことができるようになった。両手も何とか、指まで動かせている。  そんな姿を、けらけら笑って見ている同居人は、心配どころか明らかに面白がっていた。  それはわりと、いつものことなのだが……。 「汐音……手、抜いてる……?」  ツバメの存在――体を維持する約束の汐音が、今日は何故か、昨日の怪我を治し切ってくれていない。  オマエの役には立ってるだろ? と豪語したばかりなのに、本当にお気楽だ、とつい思いかけた。
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