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「駄目……過ぎる……」
ツバメからちゃっかり昨日の五百円を徴収し、汐音は既に猫缶を買っている。
汐音の普段着、学生服のままなのは、この後も外に出る気があるのだろう。それに対してツバメは、少なくとも今日だけは、一歩も動きたくなかった。
「稼がないと……なのに……」
自業自得の事態でその甘えは、ツバメ自身が許容できない。しかし体は頑なに、動くな危険、と悲鳴をあげている。
何をしてでも、今日も働く。とにかくもう少し、動けるようにならないといけない。
家賃の支払いが迫っているのだ。汐音の生活を成立させる、それがここでの契約なのだから。
手段を選ぶ余裕は、今のツバメにはなかった。
「汐音……お腹、すいた……」
「――ほえ?」
何とか上体を起こして、手をついたままで正座の体勢をとる。
それだけで荒れる呼吸を整えていると、不思議そうに汐音が覗き込んできた。
無防備な顔に申し訳なく思いつつ、手っ取り早い回復手段を、ツバメは決意する。
「……血、くれ」
そのまま、汐音が何か答える前に、華奢な胸倉を掴んで布団に組み伏せたツバメだった。
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