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 ほぼ一瞬で事が終わると、後に残ったのは、しくしくとわざとらしく顔を覆う汐音の姿だった。 「ヒドイ、無理矢理だなんて」  布団の上に、わざわざ女の子座りをしてまで、憐れみを演出している。その体の柔軟さに、逆に感心する。  ツバメがはだけた学生服からのぞく、細い鎖骨の白さとあいまって、妙に悩ましい光景が展開していた。  ツバメはもう、慣れてしまったので、至って冷静に返答していた。 「昨日食べたなら、汐音はまだ余裕あるだろ」 「だからって、心臓からガンガン巻き上げるー? ツバメのヘンタイ吸血鬼ぃー」  今の仕草のみならず、顔だけなら女にしか見えない汐音に言われることでもない。  汐音の薄い胸壁を掴み、唯一の食事を搾取した左手の指を曲げ伸ばししながら、ツバメ自身は、首に噛みつくよりはマシだと割り切っていた。  黒いバンダナを巻く左腕の指先に、鬼火と言われる虚熱を集め、相手の体表に当てて気血を奪う。  虚というマイナスが、相手のエネルギーを奪って平衡するのだと、難しいことを汐音などは言う。  あまり知られていない、鬼種全般の食事法だが、ツバメは完全な吸血鬼ではない。 「……そうなるって、わかってたくせに」  羽織っただけの学生服や寝間着の下に、汐音はいつも前開きの黒いハイネックを着ている。  今日はそのファスナーが半分以上開いていた。要するに、肌に触れさせる――血を奪いやすくするためだろう。
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