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「それでまだまだ、完全に吸血鬼化してくんないわけかー。鶫ちゃんなんてもう、これ以上ないくらいに聖女だもんなー」 「……山科家にいろって言ったのは、汐音の方だろ」  ツバメの吸血鬼化を、願っているのかいないのか。  当初汐音は、「吸血鬼になっても知らないよ?」と、血を分けるツバメに念を押した。  それは汐音なりに、心配しているように見えた。しかし今では、先のような台詞が頻繁に出る始末なのだ。 「俺が養子に行ってから……汐音、何か変わった?」  主従の契約を交わしてから、ツバメは二年ほど汐音の元にいた。従者として鍛えられていただけで、汐音がツバメに何かの感情移入を見せることはほとんどなかった。  その後に現在世話になる家の養子になり、汐音とは離れて生活していた。五年以上の時間の中で、汐音には何か、心境の変化があったのかもしれない。  それでいえば、汐音はそもそも、汐音という名前ではなかった。  ここに来た初日に突然、今後は汐音と呼ぶように言われて、その時から違和感はずっとあったのだ。  元々汐音は、ツバメ以上に出自がややこしい。この世界でも二つの姿を使い分けて、それぞれ名前を変えているくらいだ。  直観のツバメとは、また違う鋭さを持つ汐音は、心変わりを問うツバメに斜め上の反応を返してきた。 「オレに一貫性なんて元々ないけど? オレは誰かの穴を埋めるだけの、都合良く造られた悪魔なのに」  珍しく笑わずに、冷たい視線を向けてくる。それだけツバメが、土足で踏み込んでしまったのだろう。
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