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汐音もツバメも、別種の勘の良さを持つ者同士だ。一見にこやかな汐音の方が、実は壁が厚い。
内心を見せず、いつも真意の分かり難い汐音は、そもそもあまり考えない性分だが、こんな風に感情を出すことは以前にはなかった。
「ふーんだ。ツバメが反抗期になるなら、オレは猫羽ちゃんでも堕としに行くんだもんねー」
そして少しでも分が悪くなると、こうしてツバメの妹を引き合いに出してくる。
それはツバメの最大の弱点で、現在彼らが人間界にいる理由でもあった。
「いや……それは、やめてくれ」
何が汐音の気に障ったのか、そこまではわからない。だから下手なことは言えず、当初の契約を確認するしかない。
「汐音の『剣』は俺だ。それは誰にも、譲る気はない」
余程意識して演技しなければ、口先だけのことをツバメは言えない。汐音の力を借りて汐音を守る従者であるツバメには、これは紛れもない本心だった。
ちょうどその辺りで、空気を読める野良猫が汐音の膝に乗ってきたこともあるのだろう。
猫を抱き上げ、柔らかいお腹に顔を押し付ける汐音は、やっと少し表情を和らげていた。
「……オマエは誤解してるよ、ツバメ」
目で見て、耳で聴こえるようなことから、一足飛びに現状を紐解く直観のツバメ。それは汐音にとって、小賢しく映る性質でもあるようだった。
「オマエはオレの――『鍵』なんだから」
ツバメを見ずに言った黒い瞳の奥に、何が映っているか、今は誰も知る由もない。
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