_3:

5/10

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
 汐音もツバメも、別種の勘の良さを持つ者同士だ。一見にこやかな汐音の方が、実は壁が厚い。  内心を見せず、いつも真意の分かり難い汐音は、そもそもあまり考えない性分だが、こんな風に感情を出すことは以前にはなかった。 「ふーんだ。ツバメが反抗期になるなら、オレは猫羽(ねこは)ちゃんでも堕としに行くんだもんねー」  そして少しでも分が悪くなると、こうしてツバメの妹を引き合いに出してくる。  それはツバメの最大の弱点で、現在彼らが人間界にいる理由でもあった。 「いや……それは、やめてくれ」  何が汐音の気に障ったのか、そこまではわからない。だから下手なことは言えず、当初の契約を確認するしかない。 「汐音の『剣』は俺だ。それは誰にも、譲る気はない」  余程意識して演技しなければ、口先だけのことをツバメは言えない。汐音の力を借りて汐音を守る従者であるツバメには、これは紛れもない本心だった。  ちょうどその辺りで、空気を読める野良猫が汐音の膝に乗ってきたこともあるのだろう。  猫を抱き上げ、柔らかいお腹に顔を押し付ける汐音は、やっと少し表情を和らげていた。 「……オマエは誤解してるよ、ツバメ」  目で見て、耳で聴こえるようなことから、一足飛びに現状を紐解く直観のツバメ。それは汐音にとって、小賢しく映る性質でもあるようだった。 「オマエはオレの――『鍵』なんだから」  ツバメを見ずに言った黒い瞳の奥に、何が映っているか、今は誰も知る由もない。 *
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加