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昼からいつも通り、仕事探しに出ようとしたツバメは、気になっていたことをようやく口に出した。
「ところで汐音……何で、着替えてる?」
枕だけ出してごろごろとし、胸の上に寝る野良猫をあやしているものの、汐音はずっと学生服のままだった。
いつもの手袋と腕輪は外しているので、近い時間に外に出る気もなさそうに見えた。
「そりゃーねぇ。今夜も多分、『仕事』がある気がするからさ」
「…………」
「ツバメ、何か嗅ぎ付けたんだろ? 日中はどうやら、様子を見たいようだけど」
汐音のこうしたところを、ツバメは恐れ入ってしまう。ツバメが出会ってきたものを、何一つ説明もしていないのに、既に感じ取っているのだ。
ツバメとは違う間接的な勘の良さ。視覚や聴覚情報など、ほとんど何の根拠もなしに、汐音は三足飛びくらいに現状把握をしてしまう。
ツバメは直観、汐音は直感というのだと、よくわからない違いを説明してくれたことがあった。
とりあえずそれは、ツバメのように意識しての観察ではないらしい。「何となく」のレベルなので、深くはつっこんでこないのだ。
「嗅ぎ付けたっていうか……まだ、何か気になるだけだけど」
なのでひとまず、わかっていることだけ話しておく。
「何でなのか……妙に、引っかかって……」
現在あるのは、その胸騒ぎ一つだけ。
しかしそれこそ大きな兆しであるのを、彼らは経験で知っていた。
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