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今夜も多分、「仕事」がある。汐音はそう言っていた。
部屋に帰る時間があるかわからないので、上着と共に、ツバメはあるチョーカーを持って部屋を出ていた。
「とりあえず……しまっておこう……」
金属製の細い輪が黒い合皮に留められ、付着部から銀の棘が二つ垂れ下がるそれは、下手に着けると肌を突き刺す。
今日は何の仕事にありつけるかわからないが、よく動く仕事なら尚更危険だ。
まだまだ痛む体からも、できれば穏やかな仕事がいいが、選択肢があるかは行ってみないとわからなかった。
「できれば今夜は、勘弁してほしいけど……」
左腕の黒いバンダナに、首元の蝶のペンダント、そしてこのチョーカー。ツバメは軽装のわりには、色々と小物を持っている。
バンドを組んでいた時代は、もっと多かった。その道具の力を借りて、見たこともない楽器を自在に叩けた。
汐音に生かされている現実を含め、自分自身は能が無くても、他力に恵まれたツバメにとって、そうした小物の一つ一つが固有の意味を持つ大切なものだった。
「仕事」があるとすれば、昼間はなるべく、体力を温存しておきたい。
実際問題、月末までに、一日最低どれだけ稼ぐべきなのだろう。
――いい? 数字と計算の仕方だけは覚えないと、絶対に何処かで騙されるからね。
全く無学だったツバメは、山科家の養子になってから、世間を渡るための基礎知識を叩き込まれた。
元々は、麻雀の点数計算に始まったわけだが、買い物の時や、商店街の仕事でもとても役に立っている。やはり彼女には、今後も頭が上がらなさそうだ。
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