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「一日四千円、か……結構、きついな……」  支払日までの日数を考え、一日分を計算した結果、ノルマはそうなった。  これでは、「いい奴からだけ仕事を受ける」では、間に合わないかもしれない。  商店街には様々な人間がいる。ツバメの安価な助けを、本当に有難がる者もいれば、親心のような温かさで雇ってくれる者、遊び半分で声をかける者もいる。  同時に声がかかった時は、今までは有難がってくれる者を優先していた。しかしもし、それ以外の方が賃金の高い場合、そちらを選ばなければいけない日も今後はあるだろう。 「人間って……わりと、嘘つきが多いよな」  元の場所にいたときは、そこまで強く感じなかったのだが、この国に来てからツバメは何度となく驚いていた。  人々が言っていることや、浮かべている表情と、内心の感情が違うことが多いのだ。口にされない心の方が往々にして強いので、ツバメはなるべくそちらに沿おうと頭を回す。  誰もがそれを、わかっていてやっているのかと思いきや、バカ正直な者もわりと見かけた。しかしそうした者が、誰かの言葉にそのまま反応すると、不興を買う場面の方が多く観えた。  上手く言葉にはできずとも、人の感情そのものは強く感じ取って動くツバメに、その嘘は困る。行動はともかく、言葉で何を返せばいいのかがわからなくなる。  この国では特に酷いが、人間自体、状況に応じてころころと変わる柔弱な生き物だ。けれど、だからこそ汐音は、この嘘だらけの人間世界で「悪魔を狩る」のかもしれない。  体調のせいか、重い気分を引きずりながら、今日もツバメは商店街に入っていった。
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