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 昨日の事もあり、何となくまず八百屋に向かうと、店主の老人が嬉しそうにツバメを出迎えてくれた。 「お、待ってたぜ、にーちゃん! 今日はハナちゃんが遅番だから、それまで手伝ってくんねぇか?」  八百屋というより、魚屋にいそうな雰囲気の店主だ。  ここまでの道で、他にも一人声をかけられたが、そちらは珍しい夜の仕事だった。  仕事の合間が少し空くが、重なるよりはありがたい。二つ返事で引き受けて、この商店街では高齢な店主の店に入る。  エプロンを着ながら、ツバメは目当ての人間のことを尋ねてみた。 「キカリは、今日は遅いのか?」 「ハナちゃんは店じまいまで一人でやってくれるからなぁ。ついつい、遅番ばかり頼んじまってなぁ」  何やらチラシを作っている店主は、いつもとても、朝が早いという。  野菜の仕入れは早朝に済ませ、陳列も午前中に終わっている。昼前に来たツバメには、チラシ配りをしてほしいらしい。  腰の曲がった店主には、路上で立ちっ放しはきついだろう。快く引き受けて、三十枚ほどコピーされたチラシを受け取る。 「『THE・DASH! 今なら新鮮・スーパー3割引!』……これで、お客さん、わかるのか?」  DASHとは、この店の通称らしいが、ツバメは初めて知った。あまりにも勢いしかないチラシに、少し茫然とする。  首を傾げて尋ねたツバメに、がははと笑う、妙齢ながら豪快な老人だった。
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