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 ツバメが汲み取ったチラシの意味は、「このチラシを持参すれば、八百屋で三割引きで買い物ができます」ということだった。  それなら道行く人々に、要点をわかりやすいようにアピールする。 「野菜、新鮮野菜、ほしい人! これ、三割引き!」  日曜の昼の、そう多くない人通りの商店街で、チラシを掲げて声を上げるとかなり目立つ。  人目をひくのは、バンド時代の経験で慣れている。最初は買い物中の奥様方が嬉しそうに寄ってきたが、そこから口コミが広がったらしい。たった今商店街に来たという者まで、チラシをもらいにくる状態になった。  人間世界の情報伝達は、どうしてこんなに速いのだろう。思ったよりもずっと早くなくなったチラシについて、集まるおばさん達に謝ることになった。 「えぇー、ツバメくん、もう帰っちゃうのー?」 「いや……もうちょっとだけ、手伝ってるから」  実際には、店まで来てくれる人はどれだけいるのだろう。高齢の店主が営む古い店には、同じような高齢の客が多い。  昨今は野菜が高いらしく、三割引きにしてもそれなりで、若者には敬遠されやすいと店主は言っていた。  それでもうちは、良い野菜を売るんじゃ! と、言い切る店主の姿は清々しい。  二人以上の固定バイトは、雇う余裕がないようだ。そんな店には、ツバメのような存在は重宝されており、この商店街にはそういう店がちらほらとあった。
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