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この黒闇は、いったい何なのか。人間の業とは到底思えなかった。
辺りは黒一色で、一寸先も見えていない。自身のように、人外存在の何かに捕まった――何処かで目を付けられてしまったのだろうか。慣れない人間界では見当もつかない。
人外の者の仕業であるなら、眼を凝らせば見えるはずだ。ツバメ自身の黒い目でなく、「力」を追う眼――チョーカーを付けてから変色した、灰青の心眼の効果があれば。
そんなツバメに、不意に「ソレ」は、思わぬ質問を投げかけてきた。
「……何で……そんなに、無様なんだ?」
はっと、顔を上げる。声のした場所では、辛うじて黒闇の揺らぎが見える程度だ。
けれどこの感覚は、忘れもしない古傷……ツバメ自身が持つ闇の具現だと、その時点で悟る。
黒闇に融け込むソレが、ツバメを嘲笑うように、ゆっくりと先を続ける。
「動きたいなら……いくらでも、方法はあるだろ?」
ばさりと、ソレは黒闇の中で、ツバメを捕えるように大きな何かを広げた。
「汐音と鶫だけなんて、選り好みはせずに……人間を、喰えばいい」
真っ黒なソレの昏い囁きに、冷たい体が包まれていく。
人間でない鬼に、きっとそれは、妥当な解決策で……それでも、ツバメがとっくに捨ててきた、迷うべくもない選択肢だった。
「……いらない。俺が狩るのは、悪魔――……汐音の敵だけだ」
だから何故、今更ソレは現れたのだろう。それだけがツバメは不可解だった。
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