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 黒闇の中で話す相手が、段々と輪郭まで見えてきたので、ツバメは少し呼吸を落ち着けていけた。 「別に……猫羽のことは、俺の過保護だし」  ツバメは実際、妹にこの助けが必要だと、本気で思ってはいない。自分も人間界で生活してみて、ここが彼らの故郷より安全と、わかり始めていることもある。  何だかんだで前向きな妹は、ただ、とても寂しがりだ。人に気を許さない汐音なら、つかず離れずを保ってくれそうに思えた。  要するに、悪い虫がつかないようにしているだけだ。そう簡単に騙される妹ではないが、寂しさに負けることはあるかもしれない。 「オマエだって――猫羽を守る気なんて、ないくせに」  だからそれは、何もかもが今更だった。  昔であれば、ソレが言うように、妹を守るためなら何でもしただろう。  けれど今は、ツバメが存在するのは汐音の都合だ。  そしてツバメの帰る場所は、山科家になったのだから。  そうか――と。  やっと、全貌の見えはじめてきたソレが、黒闇の淵で冷たく微笑む。その顔には紛れもなく、ツバメと全く同じ、直観の眼差しと七色の声がたたえられる。  ソレが本来、彼の辿るべき末路だった。彼はソレを見捨てて、ツバメという新たな名前を得ることになった。  それは全て、汐音という悪魔がもたらした、有り得ない運命の悪戯で……。 「でも今は……オレの方が、アンタより強いよ?」  やがて、座り込んだままのツバメに、黒い呪怨を背負ってソレが近付く。  ソレを置き去りにして、変わってしまった彼に、決して消えない殺意をそっと突き立ててきた――
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