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 悪魔とはひたすらに、概念だけの存在。ヒトが悪魔を体現する時だけ、そこに現れる迷妄だという。悪魔も神もヒトの中にいると、汐音がいつか言っていたはずだ。  ツバメの場合は、完全に吸血鬼になれば悪魔と呼べるらしい。しかし普通の吸血鬼は、別に悪魔ではないと言う。  汐音に至っては、悪魔である方が便利だからやっているだけ、なのだそうだ。  汐音はいったい何を基準に、標的を定めているのだろうか。  一つ言えるのは、その「悪魔狩り」とは、完全に汐音だけの趣味であることだった。 「……汐音はいつまで悪魔狩り、やるんだ?」 「そりゃ、お腹が減る限りねー。今日は今日の、明日は明日の風に吹かれるのさー」  答だけ聞けば、単純なものだ。そこには華々しい神秘も、誰かの需要も何もない。人間程切実ではないにしても、食べなければ彼らも生きていけないのだ。  概念である相手をどう食べるのか、それも最初はわけがわからなかった。心を食べるんだよと笑いながら言っていた。  よくわからない謎かけを振り切るように、ツバメはふうっと、やっと立ち上がる。  足取りが重たく、体中が苦しい。そんな状態は、本来いつものことだった。  山科家にいた時間が、それを覆い隠すくらいに幸せ過ぎたのだろう。  そして今日までも、新しい生活に慣れるのに必死で、忘れていただけの話だ。 「ほんじゃ、ひと狩り行こっか、ツバメ」  裏路地でへたれていたのは、一瞬のようで、もう数時間がたっていた。  それでもまだ日暮れ前で、ツバメにしたらタイミングが早いような気がしたのだが……。
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