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 帰りたがっているキカリさんを、男はどうしても、何処かに連れていきたいようだった。 「もう採用で、話もついているんだから、ここですっぽかすのは失礼だろう?」 「……、でも……」  怒りを抑えた男は、よしよしと、キカリさんの頭を撫でてまでいる。  キカリさんと言えば、胸中には昨夜よりも濃い、強い落ち込みの念があった。 「駄目だよ、約束を守らないのは……もう、いい大人なんだからさ」  あくまで穏やかな男の声に、キカリさんの暗闇が一気に深まっていった。  どうして、自分は、こうなんだろうと。  これぐらいのこと、できなければ。どうせ他に何の能も無い、駄目な人間であるのだから。  でも、どうしても、それは……――  男の秘められた怒りと、キカリさんの自責に、思わずツバメは壁に手をついて呼吸を整える。  体調が悪いと、この程度の浸蝕でこうなるのかと、先行きが思いやられた。 「――あ、らっきー。あっちに行ってくれるんだ」  ツバメと違って、汐音の「直感」はそうした影響は受けないらしい。移動を始めた二人の人間に、顔を綻ばせていた。  それはおそらく、二人がもう少し、広い裏道に出てくれたからだろう。  そうして、夕暮れにしては暗過ぎる道に出てしまった人間達に、その悪魔――  「処刑人」の名を冠する審判者は、あくまで私的都合による、断罪の刻を告げたのだった。 「――こんばんは! 死神ちゃんでっす!」  二人を追った汐音に続くツバメは、小さく溜息をついた。
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